2009-2011 戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の研究成果について

概要

無線アドホックネットワークは次世代のネットワーク通信技術として広い応用分野が見込まれる技術として、非常に盛んに研究が行われている。しかし、無線リンクが不安定である故に、無線アドホックネットワークの通信を安定的に供給するすることは難しい。本研究開発では、安定通信を実現できる無線アドホックネットワークの実現を目指して、不安定化の一つの要因である一時的な経路ループを削減する手法を研究開発し、その性能評価を行った。

本研究開発では、(a) LLD(Loop-free Link Duration) および(b) LMR (Loop-free Metric Range)の2つの動的メトリック変更技術を提案する。(a) LLDはリンクの安定通信継続時間に応じて指数的にメトリックを減少させる方式で、従来の動的メトリック技術よりも低いオーバーヘッドで安定リンクを利用できる。(b) LMRはメトリック変動範囲を制限することでループを防止する方式であり、従来の動的メトリック技術に適用でき活用範囲が広い。これらの経路ループを抑制する2技術について、理論的解析、シミュレーションおよび実機実験を通じて有効性を評価する。

LLD (Loop-free Link Duration)

LLDは、リンクの安定通信継続時間がそのリンクの安定度を表すと仮定して、安定通信継続時間が長いリンクを優先的に経路として使用するための動的メトリックである。つまり、リンクの接続開始時には大きなメトリック値をとり、その後時間とともにゆるやかにメトリックを小さくすることで、最短経路計算時には安定リンクを優先的に利用する。メトリックをゆるやかに変動させることで、メトリック変動に伴うパケットループを削減することが可能であり、変動を一定以上ゆるやかにすると、制御メッセージが損失しない条件の下で、経路ループが発生しないことを理論的に保証できる。

 このような動的メトリックをプロトコルとして実装するのは、一見オーバーヘッドが大きそうであるが、実は小さいオーバーヘッドで実現できる。全ての端末の時刻を同期し、広告するリンク情報の中にリンク接続開始時刻を入れれば良い.時刻の同期は奥の深い問題の一つであるが、ネットワーク全体で時間の進み方が同期できれば良いため、ゆるやかな同期で十分である。

LLDをネットワークシミュレータQualnetに実装し、性能評価を行う事で,LLDのループ削減性能を確認できた。これらの結果をとりまとめて、以下の成果発表を行った。

LMR (Loop-free Metric Range

LMRは、既に適用されている動的メトリックがある場合に、そのメトリックの変動を一定範囲に抑えゆるやかに変動させることで、経路ループを削減する手法である。LMRでは、単位時間あたりのメトリック変動量を、伸張係数rを用いて、-r倍からr倍の範囲内に抑えることでパケットループを削減する。制御パケットが損失しない条件の下で、rが一定以下の場合には、ループが発生しないことが理論的に保証できる。ここで、ループが発生しないことを保証するrの値は、そのネットワークのホップ数を基にした直径に依存する。しかし実際には、直径がそれほど大きくなくても、ループが発生しないことを保証できるrは非常に小さく(1パーセント以下の変動しか許せない)、そのため、rの値をある程度の値で妥協することで、ループを削減する方法で適用するのが現実的である。

LMRをネットワークシミュレータQualnetに実装し、ノードが移動するシナリオと移動しないシナリオで動作させることで評価実験を行った。ノードを移動させない場合には、ループ削減効果を確認することができ、有効性を確認できた。一方、ノードが移動する場合には、LMRは時速5km/h程度までは有効に働くが、それ以上になると、ループよりもリンク切断の影響が非常に大きくなり、LMRの効果は発揮されないことが明らかになった。さらに、LMRを実機実装し、ノードが移動しないシナリオで実機実験を行った。実機実験の結果からも、LMRのループ削減性能が明らかになった。これらの成果をとりまとめ、以下の成果発表を行った。